おとうふ屋さんから「いつもより固まりがわるくて、よせどうふがうまくできなかったので型に入れて押しをつよくしてみてはいるのですが」と相当お困りの電話。このところの出来が今ひとつで、もうこれ以上は引き受けることができないかも、預かっている大豆も返したいという雰囲気にもなってきて「まあ、様子見て固まったら持ってきてください」と一度電話を切ってから、もしかしたら今日はとうふの入荷がないかもなあ、お客さんに何と説明しようかと考えながら店へ行きました。
「自然栽培の大豆でとうふを作りたい」とかねてから考えていたことでした。大豆がそれほどないこと、引き受けてくれるとうふ屋さんがいないこと、とうふは日持ちしないため販売に自信がないことを理由になかなか取り組むまでには至りませんでした。そんな時、売り先がない大豆があるとのお話をいただき、例年より多く大豆を買うことにし、しばらくやっていなかった手作り味噌のワークショップをしても味噌用だけでは販売し切れない量と見越して、念願のとうふ加工に着手することになりました。
何かを始める時、背を押してくれるのは余剰している自然栽培の農作物。とうふを作りたくて大豆を探すのではなく、大豆があるからとうふを作る。そして作ってくれるとうふ屋さんを探す。10年前は自然栽培に取り組んでくれる農家さんを増やしたい、農地を広げたいと声を大にして言っていたけど、いまの私の気がかりは需要と供給のバランス。農作物は増える一方なのに、消費者はそれほど増えていない。そして農作物と人とがうまく出会えていないのが現状の課題として見受けられます。紆余曲折をへて、そのうちうまくまとまるのが自然の摂理だとしても、農作物が余剰していると聞けば、もったいない精神に火がついて動かされてしまうのが街に暮らす人の性分なのかもしれません。とはいえ、一個人ではどうにもできないので、とうふに関してもみなさんを巻き込んで試行錯誤させてもらっています。
継続して買ってくださるお客様もついてきたところで、なぜかとうふがうまく作れなくなってきた事態、一体どうなることやら…なのですが、さすが職人さんは何とかとうふにして納品してくださいました。いつもより大豆の量が多く濃厚でクリーミー、甘味を入れたらとうふクリームになる味わいです。白和えや飛竜頭にもいいですね。「お菓子作りには最高、マフィンを焼くよ!」とうちのスタッフは喜んでいます。
とうふがうまく固まらないことが続いたことで大豆を返却すると言ってこられたとうふ屋さんは納品時に「頭でいろいろ考えすぎちゃダメみたいですね。もう一度作らせてください。だから大豆は持ってきてません」となりました。生意気なようですが、そうそうその通り、頭で考えてもどうしようもないんですよ。考えなければきっとうまくいくような気がして、わたしは再来週のおとうふがとても楽しみなのです。